風見篤史のブログ


by akazami
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『悪人』公開

2010年9月12日(
『悪人』公開
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才能とは分からないものである。
モントリオール映画祭で深津絵里が主演女優賞を受賞し、かなりの注目を集めている映画『悪人』が封切られた。主演は妻夫木聡で満島ひかり、柄本明、樹木希林など豪華キャストで吉田修一の原作のベストセラーを若手の李相日が監督した作品。

田舎にいるので観てはいないが(原作は前に読んだ)、予告編の映像から想像するにかなり映画的魅力を持った作品に仕上がっているようだ。吉田修一は割りと好きだが、原作を読んだ印象は社会の圧倒的な評価に比べると僕の印象はあまり芳しくなく「・・・長い小説だ、しかしあまりグッと来なし、文学的な美しさ物語的な面白さも言われるほどないような気がする、”悪人は誰だ?”というテーマ、イメージもあまりピンとこない・・・」といった感じ。

僕にとって気になるのはこの李相日(リサンイル)という同じ学年の監督。僕が大学の卒制で撮った映画が学内で賞を戴き、日本の映像系の大学や専門学校のトップをまとめて東京で上映しよう試みが99年に科学技術庁で行われ、そこで日本映画学校代表として上映された『青~chong~』を観たのだ。僕の作品は全く評価されず、この『青~chong~』は審査員の人達に激賞された。

僕の感じとしては「自分の映画が評価されないのはよくわかるが、なんでこんな映画の教科書通りに作ったような面白くもない青春映画ばかりが褒められるんだ!完成度が高ければいいのか?王道のどこがいい?ちきしょう。絶対間違っている、こんなベテラン職人監督が撮ったような映画なんか面白くもない!バカらしい!」と九段下会館の玄関で一人逆ギレしたことをよく覚えている。

しかし、『青~chong~』はその年のぴあフィルムフェスティバルでグランプリを獲り、李相日は一躍若手の有望株として劇映画をどんどん監督していった。その頃から暗黒の時代に入っていく僕とは対照的に彼の活躍は凄まじく、2006年の『フラガール』で早くも日本映画の頂点を極める。

才能とは分からないものである。『フラガール』を一人渋谷で観た時にはため息が出た「李相日・・・すげぇ・・・こんなすごい王道エンターテイメント映画をこの若さで撮り切るかなぁ・・・」。魅力的なキャラクター、強弱の効いた物語展開、見せ場の見せ方、刺激はないが落ち着いたカメラワーク、泣かせるドラマ演出、そして極めつけはラストの蒼井優のダンスシーン。最高に魅力的な蒼井をエネルギッシュで躍動感のある編集で見せきった李相日の監督ぶりに僕は足がガクガク震えた。それくらい『フラガール』は素晴らしい映画である。

李相日は”王道の映画監督”である。王道映画をちゃんと撮れる人はそんなにいない、というかほとんどいない。観客に魅せることを第一とはせず、ひねりにひねったマニアックなインディーズ映画なら誰でも撮れる。しかし、王道の映画は多くの観客の心を感動させ、さらに映画的な興奮を作品に注入しまとめ上げる本当の実力が必要となる。普通のレベルの人間にはどうひっくり返ってもこんな映画は撮れない。それくらいこの監督はすごい。

才能とは分からないものである。
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by akazami | 2010-09-12 21:08